大正時代を中心に挿絵画家として活躍した高畠華宵は、戦後になると児童向けの絵本や少年少女向けの名作全集・単行本の挿絵を数多く手がけました。
昭和20-30年代、敗戦からの復興をめざす日本社会では、将来をになう子どもたちに夢を与えようと、さまざまな絵本や書籍が出版されました。戦前の少年少女雑誌で挿絵を描いていた画家や新進の漫画家などが起用され、日本のむかし話やアンデルセン、グリムなどの童話、探偵小説、空想科学小説など、児童向け・少年少女向けに幅広い内容の書籍が出版されています。まだ視覚的娯楽の少なかった時代、こうしたヴィジュアルが重視された絵本や単行本は子どもたちの心をしっかりととらえました。
華宵も戦後の児童文化の発展に大きく貢献をしました。戦前からの人気や実力もあって、幅広いジャンルの絵を描くことができた華宵は、この時期におよそ60種類以上の絵本や単行本を手がけています。『小公女』 『星の子』 『しあわせの王子』 『雪の女王』 『ヘンゼルとグレーテル』 『白鳥の王子』 『しらゆきひめ』 『桃太郎』 『一寸法師』 『したきりすずめ』 『浦島太郎』 『ぶんぶくちゃがま』 『怪盗ルパン』 『母の悲曲』 『嵐の孤児/ジェーン・エア』 など、古今東西の物語の絵本や小説の挿絵を描いています。
これらの絵本や単行本は、戦後の混乱と荒廃の中で過ごす子どもたちに、夢や希望、楽しみを与えたと言われています。特に緻密な描写とカラフルな彩色がほどこされた絵本が、昭和の復興期を生き抜く幼い心に強烈なインパクトを残したことは想像に難くありません。
今回の展覧会では、こうした戦後の絵本や挿絵を展示します。全盛期の活躍ぶりの陰に隠れて、これまであまり注目されることがなかった戦後の華宵の活動を紹介します。