「現実とは絵画である。それは決して絵画の中にあるものではない」。
これは画家ゲオルク・バゼリッツ(1938年ドイツ生まれ)の芸術に対するマニフェストです。
具象的な絵画に真摯に立ち向かってきたバゼリッツは、1969年、人物や動物などのモチーフを「逆さ」にした衝撃的絵画によって、初期ルネサンス以来の遠近法に基づいた構築的絵画空間を支えていた私たちの眼差しのあり方に根本的な問いを突きつけました。それは「線的なものと絵画的なもの」や「平面と奥行き」といった絵画の孕む問題に、抽象による還元的方法にも、写真による映像的方法にも頼ることなく、革命的な視座を提供したものです。「モチーフの転倒」という特異な方法は、1980年代にはその遊戯的性格からポスト・モダンの方法と見られもしましたが、21世紀になった今日、それは現実のモチーフに従属しない自律した絵画を創生した方法、すなわちモダニズム絵画の方法としても世界中から極めて高い評価を受けています。
1965年から最近までの代表的平面作品約80点による日本初の本格的個展である本展は、絵画の歴史と運命を転倒させた現代絵画の巨匠ゲオルク・バゼリッツの神髄に迫るものです。