本展覧会は、戦後間もない時代、陶芸界にオブジェ作品という新たな方向性を示 し、海外にも広く名を知られた八木一夫の活動を、初期から晩年に至る約300点の作品を通じて回顧するものです。
八木一夫は1918年、京都の陶芸家八木一艸の長男として生まれます。1948年、鈴木治ら前衛的な陶芸家と走泥社を結成しますが、初期には中国や朝鮮の陶磁に興味を持つ一方で、抽象主義、キュビズム、シュルレアリスムなどを研究し、抽象絵画の意匠を施した白化粧の作品を制作しました。しかし1950年代、イサム・ノグチや前衛生花との出会いなどを契機に、八木は一つの記念碑的作品、「ザムザ氏の散歩」を発表します。これが、後世につながるいわゆる「オブジェ焼き」の原点となりました。
その後も八木は、黒陶による無機的な造形、本や手などの具象を取り入れた観念的な表現など、1979年に急死するまで常に陶芸家として前線にたち、鋭い感性に裏打ちされた鮮烈な作品を発表し続けました。生涯を陶芸家として過ごし、美に対する鋭敏な感覚と深い知性を備えた、まれに見る才能の人、八木一夫の幅広い作域は単に陶芸界のみならず、美術界全般に示唆に富むものとなるでしょう。