この度小山登美夫ギャラリー六本木では、伊藤彩展「PASSING WIND」を開催いたします。
本展は、作家にとって弊廊における7年ぶり6度目の個展となり、新作ペインティングと立体作品を発表いたします。
【伊藤彩作品について
ー暗く鮮やかな色彩の渦、妄想が妄想を呼ぶ、偶然の出会いの連続ー】
オレンジ、赤、緑、紫、黄色など人工的なネオンのような暗く鮮やかな色彩の渦。傑出した構成力の、時空がねじれた背景。飄々とした人かなにかが巨大化、矮小化されたり、浮いたり。伊藤作品を観るとけだるい無重力の空間を覗き込んでいるような不思議な感覚を覚えます。
伊藤は自身の作品は「無意味なつながり」「渋谷のスクランブル交差点での人々が行き交い、一人一人の人生が交差する様子」のようだと語ります。主人公たちや景色に脈略はなく、伊藤の妄想が妄想を呼んだ、偶然の出会いの連続。その異物同士のハレーションは不条理な夜の夢を彷彿とし、伊藤作品とシュルレアリスムとの繋がりを感じさせます。
また大きな特徴として、伊藤は実際にそのカオスな世界観を自ら作り上げたのちに、写真を撮り、その写実として絵画を描いているという点があります。
キャラクターのような存在を制作し、布、植物、おもちゃ、セロファンなどと組み合わせてジオラマを作り、何枚もの写真を撮りセレクト、それを忠実にキャンバスに描いていく。その気の遠くなるようなプロセスで作品の精度を高めていく方法は、想像を超えた驚きや楽しさを発見する実験のようであり、近年のリチャード・ゴーマンとの二人展や The Essential Store、Fujimura Familyとのコラボレーションでも、他の才能との出会いによる高揚感を生み出しています。
森美術館アソシエイト・キュレーターの徳山拓一氏は伊藤作品を次のように述べています。
「(伊藤の)『素朴な視線』の先にあるものは、人生の出会いや些細な出来事など、くだらなく、そして、かけがえのない『生』で、それらが卓越した伊藤の色彩表現によって祝福されている。『生きることが、制作すること』。私がこれまで様々な作家と向き合ってきた経験上、そう言える作家は意外に少なかったが、伊藤は自然にそうだと言い切る。」
(徳山拓一「旅の支度」、『伊藤彩 RAPID RABBIT HOLE 』、2020年)
(*詳しい作家情報はこちらをご覧ください http://tomiokoyamagallery.com/artists/aya-ito/)
【本展および新作に関して
ー独自のキャラクターと、人工物と植物、明暗の対比が生む時空が歪んだ新たな世界観】
本展タイトル「PASSING WIND」は、風がテーマであること、また伊藤ならではの言葉遊びが込められています。
今回の出展作「I AM DONE」は、「全てをやり尽くした人」という設定の陶器で作ったキャラクターが、涙目で横たわっています。DONEはこれから活動していくための精神の休暇をとっており、その虚無の状態にある姿に反し、周りには布や花、松の葉が、生き生きとビビッドな色で配置され、不思議な世界観が227cm角の大きなキャンバスに拡大、展開されています。
「LUCY」は毛糸の髪の毛の粘土の子で、DONEに優しく「Are you ok?」と聞いています。毛糸は風になびかせたかったけれど、水に濡らした感じも面白く変わっていきました。「I AM DONE」と対比するように明るい色彩になっており、伊藤作品としては珍しくアルミ製の布に光を反射させた背景が眩しく輝き、スプレーペインティングの線と、花の生命力が画面に活力を与えています。
今回の新作は花の存在感が大きく感じられますが、名前や種類にこだわらず、形や雰囲気で画面に欲しいものを選んでおり、生物としてのエネルギーが人工物との対比ともなり、強い存在感を表しています。
また巨大スリーピングストーンも制作し、会場に設置する予定です。来場者は思い思いに寝そべり作品を鑑賞できますが、俯瞰で見ると、その様子はまるで伊藤作品の一部として参加しているように感じられるかもしれません。
偶然の産物が想像を超えていく、それも現実。伊藤の新たな挑戦をご覧に、ぜひお越しください。