昭和39年(1964年10月1日に「岡山美術館」として開館した当館は、今年で開館60周年を迎えます。そこで今年度はすべての展覧会を「開館60周年記念展」と題して、選りすぐりの作品、そして当館ならではの展覧会を開催します。本展はその第一弾として、岡山藩主池田家に伝わった能装束や能面などの工芸品を、岡山大学附属図書館池田家文庫が所蔵する歴史資料とともにご覧いただきます。
当館には絢爛豪華な装束や、幽玄の言葉がふさわしい能面の他、帯類から楽器に至るまで、池田家が伝えてきた膨大な能楽コレクションを収蔵しています。このコレクションの礎を築いたのが2代岡山藩主の池田綱政で、江戸の本屋敷(上屋敷)や岡山城、そして御後園(現在の岡山後楽園)に能舞台を作り、自らも能を演じたことで知られています。また綱政は将軍家や諸大名らと能楽を通じて交友を深めました。こうした背景のもと、綱政をはじめ歴代藩主により形成された当館の池田家の能楽コレクションは江戸時代の大名家における能楽の実態と、スケールの大きさを示す資料として重要な文化的価値を有しています。
さらに特筆すべきは、桃山時代の装束など貴重な美術品が多数伝えられているだけでなく、藩主の動向や能楽を通した交友の様子を示す歴史資料もあわせて現存していることです。本展では当館の資料と共に、岡山大学附属図書館池田文庫が所蔵する、江戸城で綱政が「三輪」を演じた記録が残る「日次記」、能舞台が設けられていたことを示す江戸本屋敷の絵図、将軍の代替わりの際に本屋敷で催した能興行の詳細を記録した「将軍宣下御祝儀御饗応記録」などをご覧いただきます。
これらの展示品を通じ、江戸時代に花開いた大名家の能楽文化と、その資力によって形成され、そして今に伝えられた岡山藩主池田家の能楽コレクションの神髄をお楽しみください。