熱が変わると、色も変わる。
紅葉は秋の寒暖差の大きな日が増えるほど、赤い色素のアントシアニンが増え色濃く彩るらしい。昨年の夏の酷暑からの影響か、秋には楓が真っ赤に衣替えをし、冬仕様の逞しい白銀の肌を露わにした立山に目の覚める差し色を添えていた。
海のものも、熱が変わると、色も変わる。
水揚げされた蟹や海老たちも、茹でられて徐々に朱く色づき、それを見て舌が高揚する。太陽に熱され、月に醒まされながら、色を変え、形を変え、主を変え、繋がっていく熱のバトンを辿ってみる。
アーティスト@TADは、国内外で活躍するアーティストを富山県美術館(TAD)に招き、滞在して制作やワークショップ、作品展示を行い、アーティストの制作手法や考え方を紹介する企画です。
2023年度は、大田黒衣美を取り上げます。大田黒は、自然や日用品、生き物など身の回りの存在と人との日々の営みが、図らずも意味を生み出す瞬間や、今日まで伝えられる故事・伝承などをもとに、チューインガムやティッシュペーパーなどの絵画的ではないものを用いた絵画作品を制作しています。
今年度のアーティスト@TADでは、大田黒による富山でのリサーチに基づいて、富山の食、そしてこの地に伝わる信仰に着目して作品を制作します。シロエビやズワイガニなどの殻をもつ魚介類は、季節や調理法など温度によって殻の色を淡く、しかし華やかに変化させます。他方、3000m級の山々を誇る立山連峰には、古くから立山信仰という山岳信仰があり、なかでも山中の特徴ある地形や湖沼などを地獄に見立てた絵図「立山曼荼羅」は、信仰を広める際に用いられてきました。
これら富山の特色ある風土や文化への興味から、作品制作やワークショップを通して、食や文化にみられる淡さ/鮮やかさ、穏やかさ/険しさの間にある豊かな諧調を見出すことを試みます。