パリに生きた銅版画家が切り拓いたモノクロームの世界
長谷川潔(1891-1980)は、20世紀の版画史にその名を刻む銅版画家です。青年時代を大正期に過ごし、日本の創作版画の草創を担った長谷川は、1918年に銅版画技法習得のためフランスへと渡り、以後帰国することなく、さまざまな銅版画の技法で制作をつづけました。とりわけ、19世紀の写真の登場以降廃れていた銅版画技法マニエール・ノワール(メゾチント)を再興した功績は大きなもので、その静謐で深遠な作品は国際的に高く評価されています。
このたび当館に、鉛筆デッサンや制作段階の試し刷り、渡仏前の木版画など貴重な作品を含む長谷川潔の作品群が一括して寄託されました。この優れた個人コレクションの全貌をご覧いただく初めての機会となる本展では、当館所蔵作品を加えた115点を5章に分け、その画業の展開をたどります。自然の神秘をみつめる精緻な観察眼と研ぎ澄まされた描写力が結実した長谷川潔の銅版画世界を、どうぞお楽しみください。