明治維新以降、日本画の世界でも近代化の流れが生まれた明治末期から大正期にかけて活躍した画家の中に牛田雞村(けいそん)(1890-1976)がいます。
横浜市に生まれた雞村は、今村紫紅(しこう)、速水御舟(ぎょしゅう)らと革新的な日本画を目指すべく「赤曜会(せきようかい)」を結成し、大和絵、後期印象派、南画などを自由に取り入れた作風を生み出しました。日本美術院展覧会(院展)で第一回樗牛(ちょぎゅう)賞を受賞するなどその実力は高く評価されていましたが、戦後は画壇を離れ、舞台美術の仕事を晩年まで続けました。
雞村は画壇から退いたことで、今日その名はあまり知られていません。しかし、豊かな抒情性の中に斬新な感覚の光る魅力的な作品を残しており、新しい日本画を創出しようとした画家の一人として近代日本画史にその名を残しています。
本展覧会では、湿気を含んだ空気感を感じさせる風景画と無駄を排した乾性な人物画、院展を中心とした画壇で活躍した画歴の前半と離れた後半、それに伴う紙・絹と舞台背景に使われた木材による支持体の違いなど、雞村の画業に見られる対照点に焦点を当てます。
1951年、雞村は当館建物の前身である天野屋旅館に滞在して作品を制作しました。今回、旅館に残されていた松羽目などの板絵3点を初公開します。本作は、活動の軸足を画壇から移した画業の転換期にあたる作品といえ、戦前の作品と合わせて展示することで雞村芸術の一端を知る貴重な機会となるでしょう。