昨年末、逝去した大分市出身の世界的建築家・磯崎新は、ポスト・モダンの旗手として、1980年代の世界的な思潮を牽引したと評されています。
20世紀において大きなムーブメントとなったモダニズムは、伝統からの脱却を目指す思潮を持ちます。建築においては、巨匠ミース・ファン・デル・ローエ(1886-1969)の「Less is More―より少ないことが豊かである―」の言葉を象徴とし、装飾のような無駄なものを排し、機能と合理を徹底して追い求めました。
このモダニズムに対し、20世紀後半から、哲学や芸術、建築などの分野で、近代社会成立の過程で捨象された伝統性や装飾性、民族的・土着的なものの復権を試みるポスト・モダンと呼ばれる新たな思潮が登場します。この傾向を77年に建築評論家のチャールズ・ジェンクス(1939-2019)が『ポスト・モダニズムの建築言語』において規定しますが、ポスト・モダンとされる実際の建築の方向性は一定でなく、ポスト・モダニズムという一つの様式として括ることは困難なものでした。
83年に竣工した磯崎の「つくばセンタービル」はポスト・モダンの感性を示す重要な作品として世界的に注目されました。しかし、磯崎にすれば、同ビルは70年代初期から手掛けてきた、自身が分裂症的折衷主義と呼ぶ歴史主義を用いた作品のひとつであり、ことさらに意味が明示的な具象性をもったものだけを評価する通俗的ポスト・モダニズムに反発を示します。このような姿勢に、モダニズムからの脱却を図る磯崎の先駆性と独自の方向性がうかがえます。
磯崎の手法を含んだポスト・モダンの概念は、建築分野にとどまることはなく、美術・文化・思想・社会全般に波及しました。本展では、磯崎の作品だけでなく、当館所蔵の美術作品を通して、ポスト・モダンの時代を概観します。