山水画は、山や河などの自然の景物、景観を描いた画。西洋の風景画とは異なり、山岳を霊的、精神的な存在としてとらえる中国の自然観を反映した東洋画の一大部門です。現実の風景を見たまま再現するのではなく、一旦みずからの内にとり込み、心に残った景色「胸中山水」に再構成した、理想的な風景を描いています。
日本の山水画は鎌倉時代、中国から禅宗と共に水墨山水画が輸入されて以降、雪舟流や狩野派の絵画など独自に発展をとげ、江戸時代には、中国明清絵画の様式にならう南画の山水画が盛んになりました。
起伏に富んだ稜線の岩山。悠かかなたへ広がる平原。清水の流れ下る幽谷。そうした俗世間と隔絶した、大自然の小道に分け入る旅人、茅屋で読書する文人――。鎖国下の南画家たちは、実際に目にすることのかなわぬ、彼方の中国の山水を、もたらされる中国絵画や版本をよすがに描き、憧れの理想の地の風景を夢想したのです。
本展示では、日本の南画家たちが、制作の手本にした中国明清絵画、そして憧れの中国の景勝地を描いた南画山水の優品などを紹介します。