絵画は古来より神話、聖書等の物語や音楽と密接な関わりを持ち、生活の中で人々の心に寄り添ってきました。本展では見る者の想像力に働きかけ、音楽や物語を感じさせる豊かな作品世界を展開する、有元利夫、瓜南直子、斎藤真一たち岡山県ゆかりの作家の作品を紹介します。津山市生まれの有元利夫(1946-1985)は、時を経て風化したような独自の絵肌を作りだしました。舞台にも似た場所に現れる人物は、漂う音楽と共にはるか昔に語られた物語を再び語り始めるかのようです。岡山市で小学校から高校までを過ごした瓜南直子(1955-2012)は、古代日本の神話的世界に基いた「兎神国(としんこく)」を設定し、作品に様々な神仙、霊獣を登場させ、独創的な幻想譚を紡ぎました。倉敷市生まれの斎藤真一(1922-1994)は、盲目の女性旅芸人・瞽女(ごぜ)や明治期吉原の遊女について調査を重ね、作品を通して彼女たちの物語を語るほか、自画像的なさすらいの楽師等を描きました。描かれた者たちは時空を超えて私たちを訪れる旅人であり、彼らを描いた画家もまた、私たちの心に寄り添うはるかなる時空の旅人と言えるでしょう。このたびの展覧会では音楽と物語に導かれ、異なる個性の作家の世界が豊かに響き合うことを願っています。