吉本直子(1972- )は兵庫県の加西市出身で西脇市在住の現代美術家です。
吉本は、心理学者の河合隼雄に憧れ、京都大学教育学部教育心理学科に進学しました。卒業後は臨床心理士になる道もありましたが、インドを旅する中で、優れた染織工芸品と出会い、祈りと生活が共存する世界に感銘を受けます。
私たちにとって最も身近な布である衣服は、長く着用するほど、汗や皮脂などの生きた痕跡が残ります。その時、衣服は単なる布を超え記憶を記録する媒体となります。そこに着目した吉本は、自らが使用した布を用いた作品を発表し始めました。
その後、他者の記憶により強く惹かれるようになった吉本は、他者が着用した衣服、とりわけその痕跡が色濃く残された白い古着を使用するようになりました。方形に圧縮し、のりで固められた多量の白いシャツは、外観はブロックで作られた建築物のようですが、内側にはシャツの袖の形が残され、生きた人間の存在を感じさせます。古着を使用した作品の前に立つ時、私たちは人間の生と死に向き合うことになるでしょう。