江戸時代の武家社会では、身分や年齢、季節や儀礼などによる細やかな決まりごとのなかで、格式に相応しく、おごそかに、あるいは美麗によそおうことが求められました。男性は儀礼など最もフォーマルな場面では公家の伝統的な装束を身に着ける一方、日常のカジュアルな場面で着用する羽織(はおり)や刀剣の拵(こしらえ)、また火事装束や陣中着などに武家ならではの粋を凝らしました。女性は生地や模様によって格の異なる着物を時に応じて使い分け、華麗な筥迫(はこせこ)を身近に置き、化粧によって美を体現しました。尾張徳川家で誂(あつら)えられた衣服や装身具などをトータルコーディネートの演出でご紹介しつつ、それぞれの作品に込められた「よそおい」にかける武家の美学を探ります。