革新する力~多様性がもたらす技術と革新
森羅万象を描こうした北斎は、「冨嶽三十六景」で風景錦絵という新しい波を起こし、その後天保5年(1834年)75歳で発行された「富嶽百景」を機に心新たに「画狂老人卍」の号を名乗り、浮世絵を離れ、普遍的題材を肉筆画で描く道を進みます。
「……故に八十才にしては益々進み 九十才にして猶(なお)其(その)奥意を極め 一百歳にしてまさに神妙ならん歟 百有十歳にしては一点一格にして生るがごとくならん 願わくは長寿の君子 予が言の妄ならざるを見たまふべし」(「富嶽百景」の跋文)
有名な北斎の言葉ですが、北斎は「一点一格にして生るがごとく」つまり、まるで生きているような絵、絵に命をもたらすように描くことを目標としていたのではないでしょうか。
神は細部に宿るという言葉があります。北斎の肉筆画は、大胆な構図や描写はもとより、多様な題材を描きつつ、異様に細密で計算された構図や意匠、こだわった絵具の選択、繊細な反射や凹凸表現などが用いられています。そこには作品が見る位置やライティングにより変容して見えることを意識し、様々な技法を取り入れ、応用し発想する革新性が見てとれます。
「Digital x北斎」シリーズ第4弾となる本展覧会では、幅広い題材の北斎作品を通し、高精細デジタル化によってこれまでご覧いただけなかった技法や工夫などの作品細部の情報を明らかにするとともに、北斎が目指した「生きるが如き絵」の真髄、その独自性、革新性に迫ります。