タイトル等
Ceramic Site 2023
大原千尋 かのうたかお 清水六兵衞 國方善博
小海滝久 小松純 重松あゆみ 杉山泰平
須浜智子 堤展子 西村充 長谷川直人
堀野利久 前田晶子 南野馨
テキスト:マルテル坂本牧子
会場
ギャラリー白 ギャラリー白3 ギャラリー白 kuro
会期
2023-06-05~2023-06-17
休催日
日曜日休廊
開催時間
11:00a.m.~7:00p.m.
土曜日5:00p.m.まで
協賛・協力等
テキスト:マイテル坂本牧子
概要
原初と未来をつなぐメディア
マイテル坂本牧子
人々の動きが戻ってきて、足掛け4年にわたって続いたコロナ禍も、ようやく収束へと向かっているように見える。目に見えない、未知のものとの戦い。それは世界中の人々と同じ脅威を共有するという歴史的な時間でもあった。どこでも自由に行き来できる現代だからこそ、パンデミックは起こった。そして、人々の身体的な移動は制限されたが、高度に発達した情報化社会が、新しいコミュニケーションのかたちを生み出し、心理的な世界との距離をむしろ縮めていった。コロナ禍のあいだ、時間が止まっていたわけではない。スマートフォン一つで何でもできる世の中、とうとうオリジナルのテキストや画像を作成できる生成AI(人工知能)が本格的に登場してきた。テクノロジーはもはや未知の領域へと進化を続け、人間にしかできないはずと思われていることも、近い未来、AIに取って代わられるのかもしれない。
しかしながら、超高度デジタル化の時代だからこそ、これからますます、生身の人間の真価が問われていくのではないだろうか。地球環境問題やSDGs、足元の暮らしへの関心の高まり。それらもまた、コロナ禍が加速させた側面である。そんな現代において、超アナログともいうべき「やきもの」で表現するということは、じつは思う以上にポテンシャルを秘め、今という時代への鋭いカウンターとなり得るのではないか。紀元前13,000年頃の縄文時代から始まったとされる「土を焼き固める」という行為は、人間にとって、もっとも原初的な創造の一つといえるものである。やきものの強みは、まさにここにある。
「人類を規定するのに、歴史時代および先史時代を通じて人間と知性の不変の特徴とみなされるものにのみ厳密に限るならば、おそらくわれわれは、ホモ・サピエンス(知性人)と言わないで、ホモ・ファベル(工作人)と言うことであろう。要するに、知性とは、その根原的な歩みと思われる点から考察するならば、人為的なものをつくる能力、特に道具をつくるための道具をつくる能力であり、またかかる製作を無限に変化させる能力である。」(註1)
フランスの哲学者アンリ・ベルクソン(1859-1941)は、1907年に発表した『創造的進化』の中で、このように述べている。ホモ・ファベル(以下、ファーベル)とは、ラテン語で「(道具でものを)作る人」を意味し、人間の進化の原点とされる。ベルクソンによれば、人間の定義は知性にあり、その本質は(手でものをつくる)創造性にあるという。太古の人間は、自然の素材である土が、人為的な力(焼成)を加えることによって焼き固まるという性質を知り、やきものという道具をつくりだした。人間の創造の原初をここに見るならば、やきもので表現するということは、人間ならではの原初の創造性を現代にアップグレードしていくという、きわめて根源的な行為といえるだろう。
2022年、イタリアのヴェネツィアで開催された「Homo Faber Event Crafting a more human future」(4月10日~5月1日)と、愛知県陶磁美術館で開催された「ホモ・ファーベルの断片-人とものづくりの未来-」(7月16日~10月2日)では、いずれも、この「ホモ・ファーベル」という概念がテーマに掲げられていた。「Homo Faber Event」は、2016年に高度な職人技の保護と工芸の振興を目的に設立されたミケランジェロ財団によって企画された大規模な国際現代工芸展で、2018年に第一回目が開催され、それ以降、ビエンナーレ形式で開催される予定のものだった。コロナ禍による二度の延期を経て開催された第二回目では、日本がテーマ国に選ばれ、22名のキュレーターとデザイナーが企画した15の展覧会によって、ヨーロッパと日本の工芸を紹介している。日本からは12名の重要無形文化財保持者(人間国宝)の陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形の作品が、MOA美術館館長の内田篤呉、プロダクトデザイナーの深澤直人による共同キュレーション、深澤による空間デザイン、さらには写真家の川内倫子による写真・映像作品も合わせて展示された。ヨーロッパの老舗ブランドなども含む、デザイン、アート、建築、ファッションに至るまで、多種多様な手仕事にも焦点を当てた同展において、日本の伝統工芸の美しさと精神性が一際、ヨーロッパの人々の目を引いたようだ。
一方、「STILL ALIVE 今、を生き抜くアートのちから」をテーマとする国際芸術祭「あいち 2022」と連携するかたちで、東海地域とその周辺で制作する36名の作家の作品を一堂に集めた「ホモ・ファーベルの断片」では、伝統工芸、立体造形、実用陶器、インスタレーションなど、あらゆる傾向を包括する幅広い「現代陶芸」の作品が取り上げられていた。印象的であったのは、ここでは「工芸」を強調するのではなく、もっと普遍的でジャンルレスな、「人間の創造性」に焦点を当てていたことである。これは今、日本における工芸の捉え方の一つとなっているものだ。ヨーロッパでは、「伝統工芸」に特化しながら、最新のテクノロジーも駆使して「新しい見せ方」を模索し、現代における工芸の重要性、革新性を高らかに訴えているが、手仕事の復権を訴えつつも、実用性や用途の問題ではなく、あくまでも美しさや芸術性の高さを作品に求め、コンテンポラリーアートのように工芸を捉えている。ヨーロッパと日本における、この微妙な意識のズレが、工芸の本質的な問題を浮き彫りにしているようにも思う。
そもそも手仕事の聖域のように思われがちな工芸だが、じつはあらゆる面で、最新のテクノロジーの恩恵を受けている。手仕事が単なる「技巧の追求」に陥れば、間違いなく、AIに取って代わられてしまうだろう。あくまでもそこには人間の血肉の通った「創造性」「オリジナリティ」が求められ、「時代の表現」が浮かび上がってくるものでなくてはならない。来る「ポスト現代陶芸」の時代において、それは大切な羅針盤となる。
「ポスト現代陶芸」について、すでに言及を始めているのが、現代陶芸の革新者の一人・中村錦平である。2016年に石川県立九谷焼技術研修所でおこなわれた講演録を纏めた『陶芸の存在を考える-君は超絶技巧派か』では、近年、大きな潮流ともなっている「超絶技巧的」手仕事に対しての危惧を表明し、「手仕事評価高。実はセンチメンタルな美辞礼賛」「表現の重視、表現に価値。それなくして時代のアートたりえない」(註2)と熱く説いている。「ポスト現代陶芸」では、技巧・形式ではなく、表現・内容をもっとも重視するものが、その先駆となる。しかし、「超絶技巧的」手仕事も、じつは一辺倒なわけではない。自らの世界観を、生きることへの情念を、そこに込めずにはいられない作り手たちの存在にも期待したい。原初と未来をつなぐ唯一のメディアともいえるやきものの造形が、AI新世紀の今を激しく揺さぶり続けるものであってほしい。
Makiko Sakamoto-Martel(兵庫陶芸美術館学芸員)

註1 Bergson, Henri (1907) L'evolution creatrice, Paris : Les Presses universitaires de France, 1959, 86e edition, p.88(邦訳:アンリ・ベルクソン著、松浪信三郎・高橋允昭訳(1966)『創造的進化』白水社 p.163)
註2 中村錦平/鈴木秀昭(2021)『陶芸の存続を考える-君は超絶技巧派か』るるるる阿房 言論室 pp.8-9
会場住所
〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4-3-3 星光ビル2F
交通案内
●JR大阪駅/地下鉄梅田駅より約15分
●京阪/地下鉄淀屋橋駅1番出口より約10分
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ホームページ
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大阪府大阪市北区西天満4-3-3 星光ビル2F
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