今から一〇〇年前の一九二三(大正十二)年、武者小路実篤(一八八五―一九七六)は宮崎県児湯郡木城村の新しき村で生活しながら、『白 樺』をはじめとした雑誌や新聞への寄稿、連載、単行本や全集の刊行、戯曲の舞台化、村での出版事業など、多岐にわたる活動に励んでいました。また私生活では、新しき村の創設を支えた房子とのすれ違い、実篤を献身的に支える安子への募る思いと、二人の女性の間で揺れ動く自らの心と対峙します。そして、年末には安子との間に待望の子どもが誕生し、父となりました。
一方、この年、尊敬する友人で白樺同人でもある有島武郎が自死し、また、東京と神奈川を中心に甚大な被害をもたらした関東大震災が発生します。禍福ある一年を実篤はどう過ごし、何を思ったのか。その活動を振り返るとともに日記や書簡から心の内を読み解き、一〇〇年前の「実篤の今日」を見つめます。