2017年6月、交通事故に遭い、頭蓋骨陥没骨折、くも膜下出血、脳挫傷、肺挫傷などの大ケガを負う。意識不明の重体であったが、緊急開頭手術により、奇跡的に一命を取り留めた。脳損傷による後遺症で障害状態だったものの、目に映らない脳障害は周囲から理解や配慮を得られなかったため、適応障害を発症。長期休職せざるを得ない状況に陥っている。辛いだけの日々。将来への不安から気持ちが沈み、苦悩や悲哀ばかりが募る毎日を過ごした。悔しい思い、やるせない思いが脳裏をよぎり、ただ塞ぎ込むばかりの孤独で弱い自分がそこに居た。
そんな時、弱肉強食の厳しい自然界を木の樹皮に擬態し、外敵から身を守りながら生き抜いているモルフォ蝶の姿を目の当たりにした。外見の美しさからは想像も着かない力強い生命力と荘厳な進化の偉大さに胸を打たれた。「前を向いて生きろ」と背中を押された気がした。自分ではどうする事もできない現実の苦しさや悔しさ、胸が張り裂ける程の辛い思いをこの蝶を使って標本箱の中に爆発させ、全身全霊を懸けて表現しようと誓った。俯き、塞ぎ込んだ今の自分の気持ちを燃えたぎる情熱に変えて制作した僕の命とも言える作品を通じ、困難な境遇の中でも前を向く勇気と明日へ歩む希望を届けたい。
そう、僕たちの未来のために。
昆虫標本アーティスト 小枝正和