熊本出身・在住の日本画家中村賢次が描く主題と表現は幅広く、ヨーロッパの風景から、人物、日本古来の神仏、抽象までを自由に往来しています。作品サイズや形態も、扇子、屏風などの伝統的な仕立てから幅7メートルに及ぶ現代的な大型作品まで、何をどう描くかにあわせ自在です。後続の指導、文化財修復、新聞連載小説・エッセーの挿絵、県内外での個展を開催など、日本画でなし得ることすべてに柔軟な姿勢で取り組み続けています。
本展では、阿蘇を主題とする作品群と、花を主題とする作品群を各展示室で特集してご紹介します。阿蘇については、幼少期から親しみ深い場所ではあったものの、2016年の爆発的噴火に恐怖を感じたところからの重要な主題であると作家は語ります。他方、花については、日々の写生を通じて、四季の変化を感じたり、穏やかな気持ちになる主題と語ります。
阿蘇と花、異界と日常、恐怖と安穏。作家の最新の表現による対比を通じて、「作家のいま」と熊本ならではの自然の表情を感じていただく展覧会です。
熊本市現代美術館学芸員 冨澤治子