金蒔絵師の長男として静岡市に生まれた鈴木繁男(すずきしげお)(1914-2003)は幼少期から漆芸を仕込まれ、模様を生む能力を育んでいました。その才能をいち早く認めた柳宗悦(やなぎむねよし)(1889-1961)は唯一の内弟子として1935年に鈴木を入門させます。柳から工芸や直観について厳しく教育され、開館前の日本民藝館陳列ケースや展示台への拭漆塗りなどもおこないました。鈴木の仕事が初めて衆目を集めたのは雑誌『工藝』の装幀で、和紙に漆で描かれたその表紙は、多くの民藝運動の関係者や読者を驚かせたのです。
その後、沖縄県・壼屋(つぼや)の素地(きじ)に上絵を付けたことで始まる陶磁器制作は、愛媛県・砥部(とべ)や愛知県・瀬戸本業窯(せとほんぎょうがま)などの伝統的な産地や、地元静岡県・磐田(いわた)に築いた窯で、彩り豊かな花を咲かせました。そして、柳著作の装幀、各種の漆絵、名号(みょうごう)などの文字、樺細工(かばざいく)やポスターの意匠など、多岐な分野で優れた作品を残していきます。
鈴木作品の特質は、筆や型を用いて施された模様の独自性でしょう。古今の工芸品から滋養分を受取り、それを十分に咀嚼して生んだ品格ある模様は、今も燦然たる光彩を放っています。また、柳に鍛えられた眼による創造も忘れてはなりません。鈴木が蒐めた古作の優品は当館のコレクションにも散見でき、それは、所蔵品の中で確かな位置を占めています。本展は没後20年の節目に合わせ、これまで認知されることの少なかった工芸家・鈴木繁男の手と眼による創作を提示し、約半世紀にわたる多彩な仕事を顕彰するものです。