ごあいさつ
公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第277回として、「航海のなかにて 加藤 修 展」を開催いたします。
2001年9月11日、ニューヨークのワールドトレードセンターにハイジャックされた旅客機が激突しました。美術家・加藤修さんはその一週間前に文化庁芸術家在外派遣研修員として渡米し、近郊でグループ展の初日を迎えていました。即座に現地の作家がこの事件を反映させた作品に展示内容を変更し、躊躇なく自身の考えを表明するのを目の当たりにして衝撃を受けました。滞在中は個人としてだけでなく、日本人、美術家として何を描き問いかけていくのかの選択を迫られる場面が多く「アートが実社会にもっと関わっていいのではないか?」と考えるようになります。
加藤さんは筑波大学で洋画を学びました。在学中から石膏や木材を使った立体や版画にも惹かれ、それらをコラージュし命や時間をテーマにした作品で評価されていましたが、アメリカから帰国後一時期は絵を描けなくなります。しかしこの経験を咀嚼(そしゃく)して思考を整理していくうちに自分の「今」を表現することに答えを見出し、朽ちた木材で一本の櫂を作りました。力いっぱい漕ぐと折れてしまいそうなその櫂は、描けなくなってしまった自分を一番表してくれるものでした。
その後は素材そのものが持つ意味を中心に据えた表現で、鉛を用いた作品を展開していきます。自作のパネルに文字や記号などを配置して鉛を巻き、表面を腐食し風化させて時間の経過を表現します。命には限りがあり、創り出す作品は今生きて存在している痕跡なのです。
現在千葉大学で教鞭を取る加藤さんは「作ろうとすること、描こうとする行為に意味がある。アートを通じて生きていることを強く実感してほしい。」と言います。自身の作品発表のほか、小学校や美術館をはじめ病院や商店街など様々な場所で幅広い年齢層を対象にワークショップを開催し教育普及にも努めています。
今展の第1会場はこれまでを振り返り、前期は初期から櫂を用いた作品まで8点、後期は鉛を用いた作品を中心に8点、第2会場では大作10点と新作1点を展示いたします。
公益財団法人 常陽藝文センター
人の一生は航海であり、思考を深めるための庭のようでもあります。生きているなかで人間はさまざまな命題と直面しますが、それに対して真剣に向き合い考えを深め自身の意志を形にできた時、それを作品と呼びます。自分が何者か、絵画表現形態の拡張も私にとっての命題です。
加藤 修