川人綾は、「制御とズレ」をテーマに独自のグリッド表現を追求しています。
ここで言う「ズレ」とは、作家が大学で学んだ染織に由来するものであり、緻密な手作業の過程で否応なく生じる歪みを指します。これは、同じく関心を寄せる神経科学、特に視覚と認知の「ズレ」により生じる錯視効果にも結びつくものです。川人は、糸を紡いで一枚の布を織るように、塗り分けられた無数の色線を緻密に重ね合わせます。歪みやズレを含むそのグリッドは、無機質で冷たい印象のある戦後アメリカのオプ・アート(強い錯視効果を引き起こす抽象的な絵画や彫刻)とは異なる、手業の温もりを感じさせるものです。
本展では、手描きとデジタル・プリントによる、質感を異にしたグリッドを空間全体に展開します。垂線と斜線で形作られたグリッドが、三角形の形状からなるザ・トライアングルのスペースに呼応しながら鑑賞者を包み込みます。
見る角度や距離によって移ろい、揺れ動く無数の織目のなかに、われわれの認知や制御の及ばない未知の領域を探ります。