丸亀市猪熊弦一郎現代美術館では、今、世界で最も活躍しているアーティストのひとり、マリーナ・アブラモヴィッチの日本では初めてとなる本格的な回顧展を開催いたします。
ベオグラード(旧ユーゴスラビア)出身のマリーナ・アブラモヴィッチ(1946- )は、1997年ヴェニス・ビエンナーレで金獅子賞を受賞するなど世界的に活躍しているアーティストです。1960年代後半から自分の肉体を用いたパフォーマンスを始め、高い評価を得てきました。また1988年まで公私にわたるパートナーであったドイツ人アーティスト、ウーライとのコラボレーションもよく知られています。
アブラモヴィッチの作品は、身体と精神の有り様を探るとともに、その極限と可能性を探求するものでもあります。身体の限界に挑戦する行為を中心に据えた一連のパフォーマンスは、苦痛をコントロールすることで自らを解放し、その精神を浄化するとともに一段上の高みへと引き上げる方法になっています。
本展のために制作された新作≪Count on Us≫(2003)は、故郷ベオグラードに26年ぶりに戻り制作したビデオ作品で、26年前に制作された作品と同じく「Star(スター)」が題材として取り上げられています。アブラモヴィッチにとって、星型は共産主義のシンボルとして幼少時より日常にあふれたものでした。5つの画面に投影される映像は、星型と黒衣をまとい合唱する200人余の子供たち、そして骸骨をまとったアブラモヴィッチの姿です。作品に登場する子供たちには過去の記憶と未来への問いかけが現われ、血塗られた故郷の歴史を浮かび上がらせています。
本展覧会では、ゲスト・キュレーターにアブラモヴィッチと同じベオグラード出身で、最も初期からその作品を見続けてきた世界的キュレーター、ボヤーナ・ペイジをゲスト・キュレーターに招き、パフォーマンス記録写真、オブジェ、ビデオ作品を展示。これまで動的イメージの強かったアブラモヴィッチの静の要素も見せるとともに、彼女が問いかける「人間とは何か?」という根源的な問いかけを探求する展覧会になることでしょう。