日本の現代美術が飛躍的に発展した一九八〇年代、世界のアートシーンには、ドイツにクンストハレ(コレクションを持たない美術館)があり、アメリカではニューヨークのPS1(廃校となった公立小学校を改修し展示ギャラリーとアーティスト・イン・レジデンスを併設)が先鞭をつけるなど、新しい作家を生むインフラストラクチャーの開発が多く見られました。
そのような状況の中、パルコなどの企画広告ディレクターであり、「現代衣服の源流展」(京都国立近代美術館、一九七五年)や「マッキントッシュのデザイン展」(西武美術館、一九七九年)などのキュレーション、またプライベートブランドの先駆けでもある「無印良品」の立ち上げなどに関わった小池一子は、東京都江東区佐賀町にあった食糧ビル(一九二七年竣工)の3階講堂を修復し、一九八三年に佐賀町エキジビット・スペースを開設しました。「美術館でも商業画廊でもない」もう一つの美術現場を提唱し、発表の場を求めるアーティストに寄り沿う姿勢を打ち出す実験的な展示空間として、佐賀町エキジビット・スペースは、美術、デザイン、ファッション、建築、写真といった従来のジャンルを超えた、日本初の「オルタナティブ・スペース」として海外からも注目される存在となりました。
佐賀町エキジビット・スペースで行われた展覧会は106回、関わった国内外のアーティストは400人以上にのぼり、二〇〇〇年十二月に幕を閉じるまで、多種多彩な現在進行形の美術を発信し続けました。その一連の活動は「定点観測」という言葉に集約することができます。本展は、開設から17年にわたる佐賀町エキジビット・スペースを拠点とした定点観測を通して、日本の現代美術の軌跡を辿るものです。