洋画家・宮本三郎(1905~1974)は人物を主な画題としていた一方で、風景画もしばしば描いていました。それらの作品群は人物画と同様に、多彩な画風とタッチを駆使して制作されており、生涯にわたって表現の可能性を実験的に試み続けた宮本の、あくなき探究心をみてとることができます。
風景画では、山々の連なりや水辺の情景、あるいは家々や建造物が立ち並ぶ街の様子など、ある景色が一定の距離感をもって展望するように描かれます。そのため、特定の対象に焦点がしぼられる人物画などと比べると、観る者の視線もまずは画面全体を「眺める」ことになるでしょう。このように、モティーフ上での主役と脇役との線引きが希薄となる風景画では、宮本作品に通底する、フラットで装飾的な画面構成がいっそう際立つことに気づかされることになります。
本展では、1930年代末と50年代中頃の2度に渡る滞欧期に描かれたヨーロッパの街並み、終戦直後の数年間を過ごした郷里の自然、戦後からほどなくして復興を遂げてゆく東京の眩いネオンが光る夜景など、時代と場所を変えて画家が対峙した、さまざまな風景をご紹介します。宮本三郎作品の魅力の一面をお楽しみください。