開館20周年を記念し、当館では「版の美―板にのせられたメッセージ」をテーマに浮世絵・新版画から現代の版画まで、わが国の木版画の諸相を展示してまいりましたが、全4回のシリーズ企画展の最後に「創作版画」の世界をご紹介します。
浮世絵や明治・大正期の新版画が伝統的に分業で制作されたのに対し、「創作版画」は作者自ら描き、彫り、摺る作品として一般に定義づけられます。山本鼎や石井柏亭らの提唱によるものですが、単なる絵画の「複製」でなく画家の創意が反映された作品を重視する運動が起こりました。
本展では1904(明治37)年、雑誌『明星』に掲載された山本鼎の記念碑的作品《漁夫》に始まる「創作版画」の物語を、明治末期から大正期、昭和前期に制作された20名の作家による約180点の作品によりひも解きます。
山本鼎が仲間と発行した雑誌『方寸』、長谷川潔の自刻木版で飾られた詩人達の文芸誌『假面』、そして大正期文化の精華ともいうべき田中恭吉、恩地孝四郎、藤森静雄の回覧誌『月映』などの出版活動で版画が重要な役割を果たしましたが、これら全てが20代の若者たちの手でなされたことに驚かされるでしょう。大正期を中心に1910年代から20年代にかけ、海外芸術思潮の強い影響の下、鋭敏な感覚と批判精神を特権とする若い芸術家たちは同時代を仲間と共有するために版画を有力な手段としました。果敢な実験の季節を経て1918(大正7)年の創作版画協会や1931(昭和6)年の日本版画協会設立へと至りますが、これら運動の消長の中に版画が美術ジャンルとして独立していく過程がみられます。創作版画運動を通過点とする様々な青春群像とその行方をご覧いただきたいと思います。