竹久夢二(1884-1934)が描いた美人画はその独特な美意識から「夢二式美人」と称され、憂いをたたえた儚げな女性像は今も多くの人を魅了しています。夢二式美人はたまき(夢二の妻)との出会いによって誕生したと言われますが、その原点には大好きな母や姉の存在があり、当時弱い立場にあった女性への共感の表れでもありました。大きな瞳、しなやかな体つき、大きめに描かれた手足などの特徴をもつ抒情的な夢二式美人は、夢二の理想の女性像の追及であり、そこに描きだしたのは心の詩でした。詩人の一面を持つ夢二が描いた作品からは当時の社会背景もうかがえます。
「明治の女の一番美しいものを私しは描くので御座いまする。あわれな女を美しく描くと申す事は余程明治つ子にはくるしい事だろうと思いまする。」同時代に生きた詩人・河井酔名に大正二年にあてた手紙には初期の頃の作画への情熱が綴られています。本展では葛藤の中から夢二が描きだそうとした理想の女性像にせまります。
秋の特別展示として、夢二の中期の代表的な大作屏風《秋のいこい》、晩年外遊で新しい表現に挑戦する中、ロサンゼルスで外国人裸婦を意欲的に描き「幻の油彩画」と称された貴重な油彩《西海岸の裸婦》を特別に公開いたします。