このたび笠岡市立竹喬美術館では、近代日本画における女性表現の珠玉を蒐集したコレクションとして知られる培広庵(ばいこうあん)コレクションを、「デカダンスの気配」という新たな視点でご紹介します。
明治以降の日本画の一領域にある美人画は、復古的な表現を主流としつつも、自我の芽生えにより、次第に時代や社会に対する自己意識を表出する表現を生み出します。特に明治末期から大正初期にかけては、日清・日露戦争を経た社会矛盾に対する反動や、またフランスやイギリスの耽美主義から受容した享楽的な思潮が文芸界を包み込みます。女性表現においても、虚無的で退廃的な傾向を帯びた作品が登場します。この「デカダンスの気配」は、画家ごとに濃淡の度合いは異なりましたが、この時代を彩り、個性の際立つ百花を咲かせました。
培広庵コレクションには、優美で高品な上村松園や鏑木清方の作品とともに、東京の山川秀峰、京都の甲斐庄楠音、大阪の北野恒富に代表される「デカダンスの気配」を帯びた作品が多く含まれています。また、金沢に生れ京都で学んだ紺谷光俊の作品群は、金沢ならではの優艶な美を紡いでおり、本コレクションの意義ある地方色を形成しています。新しい視点で見直した培広庵コレクションの魅力を、46名の作家による79点の作品によって、存分に堪能していただければ幸いです。