1930年代から1960年代後半、日本の美術はヨーロッパの動向を追いつつ、表現を成熟させていきました。
パリを中心とする滞欧作家の帰国があいついだ洋画では、前衛美術の余波をうけて、幾何学的抽象やシュルレアリスムを日本になじませる方向が模索されます。戦争を挟みながらもモダニズム、モダンアートという表現傾向を世界と共有しつつ、日本人なりの表現がさまざまに求められ、やがて各人の作品に結実していった時代ともいえるでしょう。
同世代の作家として1920年代から交友関係のあった村井正誠(1905-1999)・矢橋六郎(1905-1988)・山口薫(1907-1968)は、滞欧をともにした1930年代から、山口の没した1960年代後半まで、友として、よきライバルとして同時代を過ごしています。
滞欧をへて、新時代洋画展、自由美術家協会、モダンアート協会と、いずれも近代から現代の日本洋画を語る上で欠かせない団体の結成をともにした村井・矢橋・山口は、互いを近くに意識しながら、「日本の抽象表現」など、同世代共通の課題に取り組みました。その足跡は、1930年代の「モダニズム」から「戦後美術」と呼ばれたモダンアート傾向、さらに1960年代以降の現代美術へという動向とも重なります。
本展では、3人の出身地等として、ゆかりの深い和歌山県立近代美術館、岐阜県美術館、群馬県立近代美術館や、開催館のコレクションなどを中心に、同時期作品、同テーマ作品など42点を並べて展観することで、その交友を偲ぶとともに、抽象と具象のはざまに揺れる同時代の表現傾向の一端にも、あわせて触れようとするものです。
なお、本展は(財)地域創造の市町村立美術館等活性化事業として助成を受け、全国4館をめぐる共同巡回展として実現したものです。