「鉄には無限の表情が表れる」
小井土滿氏は1947年東京都に生まれ、鉄素材が持つ質感や硬度、火を通して複雑に変化する表情を生かした表現から金属造形の可能性を追求してきた彫刻家です。73年に本学造形学部産業デザイン学科工芸工業デザイン専攻を卒業し、76年以後毎年出品を続ける行動美術展では向井良吉や建畠覚造に推薦され「アスワン水没とヨット遊び」で第41回行動美術賞(86年)を受賞するなど業績を重ねる一方、本学工芸工業デザイン学科研究室の助手を務めた後の80年に本学共通彫塑研究室のスクーリング講師となり、保田春彦や若林奮らの指導を受けながら鉄素材への探求を一層深めていきます。85年には本学工芸工業デザイン学科の共通デザイン研究室担当専任教員となり、後進の指導と育成にあたってきました。
抽象彫刻家の薫陶を受けながらも「形態は一見すると抽象のようだが、イメージは具象」と作家自身が述べるとおり、エジプト・ギリシャ・ネパールなどを旅して感じた、重なり合う空気や光の流れを汲み取った佇まいは、鉄の彫刻に置き換えられた水墨画とも呼べるものです。視る角度によって全く異なる表情を見せるこれらの作品群から、たとえば時間や空間の揺らぎといった、その場にありながら象 (かたち) に収めることができないものが立ち上る表現を見ることができるでしょう。
本展では、高さ2メートルを超える鍛造作品に加えて初期の鋳造作品なども紹介する他、本学の総合的造形教育の一領域を担ってきた共通デザイン研究室における小井土氏の軌跡を振り返りながら展観します。