自然に対する独自の視点と精緻な観察に基づく作品をつくり続けている若林奮(わかばやしいさむ:1936-)。その作品は、現代日本における彫刻のひとつの到達点を示すとともに、国際的にも高く評価されています。若林がつくり出す彫刻は、積み重ねられた省察と深い思索に支えられながらも、寡黙で多くを語ることはありません。修辞らしき部分は一切削ぎ落とされた禁欲的な形態、金属あるいは硫黄などの素材によって成り立つ緊張感に満ちた表面には、思索の対象に対する鋭敏な感性と制作における深遠な思想が漂っています。その作品は、空間や時間をも含んだ自然やそこに存在する事物を、自己と言うある意味では唯一の存在を尺度として認識しようとする、作家自身の具体的で私的な経験の証跡となるものです。
彫刻家としての若林の重要性を反映するかのように、彼の作品をまとめて紹介する個展がこれまでもたびたび開催されていきました。しかし、それらは近作や新作を中心としたもので、彼の作品を全体として見渡せるものではありませんでした。本展覧会は、若林の初期から現在にいたる彫刻約70点、さらに彼の制作のエッセンスであり、思索の痕跡ともいえるドローイングを約200点展示し、若林の全体像を紹介する初の回顧展です。