このたび、武蔵野美術大学 美術館・図書館では展覧会「絵の始まり 絵の終わり ―下絵と本画の物語―」を開催いたします。
この展覧会は、日本画における本画とされるもの以外の素描や下図・草稿などに焦点を当て、<絵>にいたるまでの様々な生成の<物語>についてあらためて考えようとするものです。線やブラッシュワークの試行錯誤の跡から作者の生々しい息づかいを感じ、行きつ戻りつする作者の人生を絵のなかに追体験することも可能でしょう。
時代や作家によって異なりますが、下絵とは本画を制作するために構想を練り上げながら描いた試し書きでありながら、それ自体もう一枚の絵画といえるものでもあります。本画の麗しい筆線とは異なり、下絵には紙を貼ったり胡粉で消したりしながら何度も描き直した、描き手の格闘の様子が残されています。また、素描や草稿、ドローイングといった作品からは、画家の細部への視線とこだわりが見てとれます。
展示会場には、狩野家模本や河鍋暁斎の下絵から、竹内栖鳳、土田麦僊、村上華岳、野長瀬晩花、山口八九子といった近世の伝統的な画法を継承しつつ、明治以降の西洋技法を取り込み「日本画」を新たな次元に押し上げる原動力となった円山四条派を中心とした京都画壇の作家たち、いわば「在野」で庶民の生活に根ざした作品を描いた菊地養之助、猪巻清明、宮本十九一、酒井三良、四方田草炎らの下絵や素描が並びます。また本学で教鞭をとられた福田豊四郎、奥村土牛、塩出英雄、毛利武彦、本学日本画学科の現教員である内田あぐり、山本直彰、西田俊英、井上耐子、尾長良範、若手注目作家の酒井祐二、熊澤未来子、桑原理早、澤井昌平らも紹介します。
近世の狩野家絵師たちの仕事から、近代、現代の作家まで多様な作品を集め、「下絵」と「本画」の間に繰り広げられる「絵の始まり 絵の終わり」の物語を綴っていくことにいたします。