ブルガリアに生まれたジュール・パスキン(1885-1930)は、エコール・ド・パリ(パリ派)を代表する画家のひとりとして世界的にその名が知られています。早くから素描家としての実力を認められたパスキンは、“芸術の都”パリを制作の拠点とします。また、ヨーロッパはもとより、6年間暮らしたアメリカ、北アフリカなど、世界各地の旅に生きました。
パスキンの作品には、19世紀末から第一次大戦までのベル・エポック(良き時代)、続く1920年代のフォル・エポック(狂乱の時代)の華やかさと哀愁に満ちた空気が映し出されています。とりわけパスキン晩年の繊細な描線と淡く虹色に輝く「真珠母色 (しんじゅぼしょく)」で描かれた女性像は、当時から人々を魅了し続けてきました。
本展は、パスキンの本格的な回顧展として企画されたもので、パリ市立近代美術館、ポンピドゥー・センターをはじめとするフランスの美術館、欧州各地の所蔵家、および国内の美術館が所蔵する油彩画、素描、版画、挿絵本等によって構成されています。生来の自由人であった自身の生き方に対する苦悩、そして愛人リュシーとの確執から、「さよなら、リュシー」という“愛のメッセージ”を残し、45歳で自らの命を絶ったパスキン。波乱に満ちた生涯を送った画家の人と芸術を心ゆくまでお楽しみください。