海に囲まれ、山河の自然に恵まれた日本において水は身近な存在であり、美術の世界でも古くから様々な姿で表現されてきました。その形態を多様に変化させる水は、決まった形を持たないからこそ、常に画家のインスピレーションを刺激するものであったといえるでしょう。形のない対象をいかにして描くかという課題は、多くの画家が挑戦した重要なテーマでした。
本展では、画面から感じられる「水の音」に焦点を当て、川、海、滝、雨の主題に沿って厳選した当館所蔵品を通して、近世から現代までの画家たちの試みを振り返ります。22年ぶりに六曲二双の全てを一挙公開する橋本関雪 (はしもとかんせつ) の大作《生々流転》をはじめ、突然の夕立に急ぐ人々の姿を臨場感豊かに描いた歌川広重 (うたがわひろしげ) の浮世絵、躍動する水の描写を試みた横山大観 (よこやまたいかん)、川端龍子 (かわばたりゅうし)、奥村土牛 (おくむらとぎゅう) らの近代・現代日本画、そして、激しい水飛沫をあげて勢いよく流れ落ちる迫力に満ちた滝を描いた千住博 (せんじゅひろし) の「滝」シリーズ。これらの作品は、水の視覚的な造形美を伝えるとともに、雨や波、落下する水の音を想い起こさせ、私たちの聴覚にも訴えかけてきます。
地球の温暖化とともに気温が上昇し、毎年猛暑が続く昨今、私たちの日々の生活に欠かせない水への関心は特に高まっています。江戸時代から現代に至るまでの絵画を通して、日本の人々が水に向けてきた眼差しや想いを感じていただく機会となれば幸いです。