佐野市立吉澤記念美術館の代表的な所蔵品である伊藤若冲《菜蟲譜》は、平成12年に作品の存在が公表されて以降、小規模なメンテナンスを行いながら公開を行ってきましたが、絵具の剥落・裏打紙の剥離・料絹の折れや汚れなどの問題に直面していました。平成21年度の重要文化財指定を契機に、国庫・栃木県費補助を受けて全面的な修理を行うことを決定し、平成23~24年度にかけて解体修理を行いました。裏打ち紙の取り替えなどを行い、色彩は鮮やかさを取り戻し、将来にわたって安定した状態で保管・鑑賞できるようになりました。
1年半ほどの養生期間を経て、修理後初めての公開を行う本展では、作品の展示 (会期中の場面替えあり) とともに修理の内容やその過程で判明した事柄を紹介します。
また、修理と前後して、平成22年度から東京文化財研究所と共同で、光学調査を行いました。高精細デジタル撮影、蛍光エックス線・赤外線撮影により、肉眼視では気づかない微細な表現上の工夫、彩色材料の推定などを行いました。これによって新たに判明した事柄もありました。
若冲の描いた野菜・生きものたちに、新鮮な姿で再会するとともに、文化財保存の様子や若冲の描写の秘密の一端を知っていただく機会となれば幸いです。
なお、展覧会では当館収蔵の江戸時代絵画・近代陶芸作品も展示します。巻子や扇面といった手もとで愛でる形式の作品を中心に、狩野派・南画・円山四条派など、さまざまな側面から江戸絵画の魅力をお楽しみください。