松は冬でも緑を保つことから、東洋においては高潔さの象徴とされ、長寿・繁栄の吉祥ともされてきました。その起源は古く、『詩経』、『論語』などの中国古代の古典にまで遡ります。六朝時代には、高節の士が松に喩えられ、人物画の背景にも描かれるようになりました。唐代になると、岩とともに描く松石図が流行し、豊かに茂る唐風の松が成立します。その表現は日本にも伝えられ、やまと絵や、和鏡の蓬萊文様などに受け継がれていきました。宋代には水墨技法を基調とした瀟酒な枝振りが好まれ、室町水墨画にはその影響が顕著にみられます。また、元以降に盛んになる文人画では、描き手の精神が筆墨に発露された様々な松が描かれていきます。
我が国でも松は古来、和歌に盛んに詠まれ、富士とともに描かれる三保の松原、高砂図に配される相生の松など、芸術との関わりは尽きることがありません。
このように日頃から接する機会の多いモチーフにも関わらず、それらに込められた意味や由来が紹介されることは必ずしも多くないように思います。本展は、関西の三館が連携し、松竹梅から一つずつテーマを選んで関連作品を陳列する「松・竹・梅」展の一環で、松の様々な造形と意味をご紹介します。日ごろ見慣れた松の姿に、古代より、脈々と受け継がれてきた東洋文化の豊かな伝統を実感していただければ幸いです。
3館連携「松・竹・梅」展の開催にあたって
松竹梅は、縁起のよい植物として現在でも広く親しまれています。もともとは、冬の寒さに耐えて緑を保つ、あるいは花を咲かせることから、中国において高潔さの象徴とされ、宋代以降は「歳寒三友」とも称されて、次第に吉祥のイメージが強まっていきました。ただ、そこに表された意味や由来を探っていくと、より多彩な世界があることに気づかされます。
このたび、黒川古文化研究所・大和文華館・泉屋博古館は、各館が松・竹・梅を一つずつ受け持つ連携展を企画しました。相互に借用を行って、日本・中国・朝鮮半島の絵画・鏡・漆器・陶磁器・文房具・刀装具など様々な作品を陳列します。
早春から新緑へ向う季節、奈良・京都・西宮と会場を巡っていただき、それぞれのモチーフの特質をとらえた先人たちの美意識と、その背後に込められた豊かな精神をご堪能ください。