日本近代絵画の先駆者として知られる萬鉄五郎ですがその活躍時期はわずか15年ほど。大正期に集約されます。その僅かな間に萬は数多くの自画像を描きました。それらが描かれたのは大きく2つの時期に集約されます。まずは美術学校後期から画家として出発を始めた頃に描かれた作品群。卒業後まもなくフュウザン会に参加し、表現主義や未来派主義の模索を行っていたこの頃の自画像からは、若い気概にあふれた萬を感じることができます。そして第2の時期は、郷里・土沢で制作に没頭した大正3年から5年かけて描かれたものです。この短い期間に萬は集中的にキュビスムなど様々な実験を重ねており、残された自画像群からその試行の跡を読みとることができます。
さまざまな造形思考の実験の結果描かれた萬の自画像には、異様ともいえる一種独特な「顔」があらわれます。この度の展覧会では、油彩作品のほか、素描やスケッチブックも合わせ、その制作のプロセスを探るとともに、自画像に託した思い、萬鉄五郎の絵画表現の多様性にメスを入れ、彼は何を求めて何を描きたかったのか、そこに隠された思いに迫ります。