山の版画家として知られる畦地 (あぜち) 梅太郎(1902-1999)と、木版画の詩人として知られる川上澄生(1895-1972)は、大正から昭和にかけて独自の画境を切り開いた版画家です。
愛媛県北宇和郡二名 (ふたな) 村 (現・宇和島市三間町) に生まれた畦地梅太郎は18歳で上京し、版画家の平塚運一、恩地孝四郎の知遇を得て木版画に道を定めます。初めの頃は身近な都市風景を描きましたが、やがて故郷の自然と向き合うことで「山」というテーマを見出し、50歳になると素朴で温和な表情の「山男」を通じて自己を表現しました。その作品の中には常に社会的メッセージが内に秘められています。
昭和初期、畦地梅太郎は関東大震災で復興した東京の姿を描いた連作版画集『新東京百景』の摺りに携わりました。そこで川上澄生を始めとする先輩たちの作品から多くを学び、重厚さを感じさせる独自の摺りへと発展させました。
一方、横浜に生まれ東京で育った川上澄生は、赴任地である宇都宮を拠点に、教職のかたわら創作活動に励みました。モダンな色彩とリズミカルな造形によって詩情豊かな作品を生み出し、異国情緒あふれる南蛮、文明開化というテーマを生涯にわたり追求しました。
本展では、同時代を生きた版画家・畦地梅太郎と川上澄生にスポットを当て、都市風景や自然風景、戦後の代表的なテーマから、ふたりの芸術が志向するものをたどります。