わたしたちは眩暈(めまい)のなかに何をみるのか。
眩暈。それは身体が不意に失調する前兆です。矢継ぎ早に変化する映像そして色彩、不協和音―。松本俊夫の映像は、私たちに眩暈を容赦なく突きつけ、感覚の不快さを引き出します。それは、私たちの際限ない欲望と罪の意識が引き起こす禁忌の行為といえます。しかし、感覚の不快にだけに向けられているのではありません。この映像を見ることは、今まで感じることのなかった新たな感覚を発見するために必要な手続きであります。まさしくこれは、現代に生きる私たちの通過儀礼(イニシエーション)ともいえるのです。
この展覧会は、日本における実験映画の先駆者であり、ヴェネチア国際記録映画祭サン・マルコ金獅子賞など、世界的な映画賞を受賞してきた松本俊夫の映像世界を紹介します。なかでも、「現実と虚構」をモチーフとして描き出された松本俊夫の<白昼夢>について、映像資料やグラフコンテ・絵コンテ・台本などの制作背景を伝える参考資料、さらに映像理論の解説を加えて、観客自らが眩暈を通じ感覚的な「何か」を実感する構成になっています。