<現代の夢二>林静一の様式美と画業をたどる
「赤色エレジー」の詩、「小梅ちゃん」の物語の魅力
林静一は、1970年に『赤色のエレジー』で、日本の文化シーンに衝撃的デビューを飾りました。戦後日本の、未知の成長社会と時代の中での男女の青春の光と影を見事に描ききりました。アニメ制作の会社で働く若い二人の恋する男女を設定し、彼らが求める幸福や不安を瑞々しく表現し、わずか一年間の連載で現代に生きる若者の心を捕らえました。省略と飛躍に富んだ詩的な表現で一躍、連載された漫画雑誌『ガロ』の花形作家となりました。その後も演劇のポスターや雑誌、書籍の表紙絵の仕事を手がけていきました。その画風は浮世絵に見られるような、日本的な色彩の様式美をふまえた、シンプルな構成を特徴として、なにより時代の空気を抒情的に表現する「絵師」の名にふさわしい《静一様式》と呼ぶべきものでした。また、「現代の夢二」とも称される女性美の表現の現代的継承者となりました。
1980年代にかけてはロッテ製薬のキャンディー「小梅ちゃん」の連続コマーシャルで新しいキャラクターを生み出し、等身大の女性のこころの機微に寄り添った息の長い物語性のある絵巻を展開しました。更に、源氏物語のアニメ映画にも挑戦し、その後も次々に新しい仕事に挑戦して行きました。国内外でCF映画の受賞があり、2010年には『赤色エレジー』がフランス人の手によってフランス版が出版されました。
近年は、画材に岩絵具(いわえのぐ)を使用した日本画も描き、イラストレーションや木版画で培ってきた切れのある線と簡素な色面がさらに発酵し、新たな画業の境地を切り拓いています。
本展は、一貫して現代の女性美を叙情豊かに表現してきた林静一の、1970年代から現在までの幅広い画業を、200余点で紹介するものです。