細川護熙氏(1938~)は、1998年に政界から引退したあと、神奈川県湯河原町の「不東庵」で、作陶や書などの創作活動にいそしんでおられます。
2009年からは、油絵の制作も新たに始められ、このたびの「胸中の山水」をテーマとした作品群は、本展のために制作された新作です。本展覧会は、細川護熙氏の、美術館における最初の油絵による展覧会になります。
「胸中の山水」とは、細川氏が若い頃から愛唱してこられた漢詩の世界、そこから生まれた山水のイメージです。人の世の儚さを雄大な自然に照らし合わせ情感豊かに詠い上げる漢詩には、悠久なる時間の流れとともに壮大なスケール感があります。細川氏の作品は、そうした漢詩の魅力を、色彩の世界に見事に表しています。幻想的な色調のハーモニーは、見る者を画中の物語的な世界へと誘います。主な展示作品は、陶淵明「飲酒」、崔顥「黄鶴楼」、王維「送別」、張継「楓橋夜泊」、柳宗元「江雪」など、自選の漢詩からイメージした絵画 11 点、および漢詩の一節を直筆した書の作品です。このほか、茶陶や五輪塔、陶仏、童子像などの代表作も合わせて陳列いたします。