香月泰男(1911-1974)は山口県三隅町(現長門市)に生まれ、当地で画業の生涯を終えた洋画家です。戦中、シベリア抑留経験をもつ香月は、帰国後、「シベリア・シリーズ」として抑留時代を題材にした作品を発表し、第1回日本芸術大賞受賞(1969)をはじめ海外の国際展でも高い評価を得ました。「シベリア・シリーズ」で人間の本質に関わる普遍的なテーマを生涯貫いた香月泰男は、一方で、豊かな慈愛に包まれたかのような作品を多く残しています。それが、身近にあるブリキや木材などで制作した「おもちゃ」です。動物、昆虫、サーカス、母子像など、穏やかな温もりを感じさせてくれる「おもちゃ」は、「シベリア・シリーズ」が人間の「負」の部分を問うものとは対極に、「愛」のかたちを説いたものと言えるでしょう。本展では、香月泰男の慈愛の精神に満ちた「ゆめのかたち」として具現化された「おもちゃ」を中心に、油彩、水彩・素描、版画作品を交えて展覧します。大人の方はもとより、こどもたちにも、視覚的にわかり易く、また、楽しく鑑賞して頂きながら、香月芸術の創造力の源の一端に触れてみてください。