芥川賞作家にしてドイツ語教師、歴史家にして農民運動家―さまざまな顔をもつ桜田常久が亡くなって、2010年は30年の節目にあたります。
桜田常久は1897年、裁判官だった父の赴任先大阪で生まれ、東京帝国大学独逸(ドイツ)文学科に在学中から同人誌に小説や戯曲を発表しています。卒業後は日本大学予科などでドイツ語を教え、またドイツ戯曲の翻訳も手がけています。1932年に当時の町田町本町田に転居、教師のかたわら農耕を始めました。1941年には小説「平賀源内」で芥川賞を受賞しますが、自信作だった前作「薤(かい)露(ろ)の章」が落選だったため、不本意な受賞となりました。
戦後は農民運動に身を投じ、農地解放に尽力します。また民衆運動に深い関心を寄せる一方、『安藤昌益』『画狂人北斎』『山上憶良』など、時代の転換期に生きた人物たちの伝記小説を発表しています。これらの作品には、不合理な身分制の下で特権階級を支えた、働く民衆への共感があふれています。
本展では、長らく町田に在住した反骨の作家桜田常久の生涯と作品を紹介します。