原勝四郎(1886-1964)の残した油彩画は、鮮やかな色彩の効果で空間が構成され、勢いのある筆触による、対象に内在する生命をも表出させるかのような表現に特徴があります。描かれたのは主に近隣の風景で、他は自画像、家族の肖像、裸婦、バラを中心とする静物画など身近なものに限られますが、その個性的な作品のどれもに、画家の対象に注ぐ詩的な眼差しが感じられ、没後半世紀近くを経た今も多くの人を魅了し続けています。
原は田辺中学校(現・田辺高等学校)を卒業した後、上京して洋画を学びますが、本場で西洋の芸術に接したいというやみがたい思いから、無理をして第一次大戦下のパリに渡り、その後フランス各地、アルジェリアを苦難のなか放浪して帰国しました。その後は郷里の田辺、隣町の白浜を離れることなく過ごし、中央での作品発表は戦前は二科展、戦後派二紀展への出品にほぼ限られていたために、生前その作品が広範に知られ、充分な評価がされるにはなかなかいたりませんでした。しかし、没後に残された作品が集中して紹介される機会を重ねると、その都度、西洋絵画の単なる模倣ではない近代日本の洋画家独自の表現として、評価を高めてきました。
今回の特別展は約60点の作品によって、原の若き日から晩年までの制作を追って画業を回顧するものです。原勝四郎の芸術を改めて広く紹介し、その作家像を再構築してゆく契機にしたいと思います。