「絵画芸術とは、教会に奉仕するものであり、それゆえキリストの受難を描くものである。それはまた人間の姿を死後の世にも伝えるものである。大地、水面および星辰の測定は、絵画によって提示されることで理解されやすくなる。」
――ドイツ・ルネサンスを代表するアルブレヒト・デューラー(1471-1528)は、自身で構想した芸術理論書『絵画論』のなかに、そう記しています。同書は結果として未完のまま終わりましたが、残された草稿からは、デューラーに固有の芸術観をうかがい知ることができます。上の一節は、『絵画論』の草稿中、画家の資質や訓練方法などについて論じた「画学生の糧」と呼ばれる章に記されている言葉です。デューラーはここで、芸術において重要なのは「宗教」「肖像」そして「自然」という3つの主題であることを明らかにしていきます。まさにこの3点こそが、デューラーの芸術を支える理念だったといっても過言ではないでしょう。本展覧会では、これらの主題が実際の作品においてどのように視覚化されたかを見て行くことで、デューラーの芸術の本質に迫ろうとするものです。
出品される版画・素描作品は、オーストラリア、メルボルン国立ヴィクトリア美術館からの105点を中心に、国立西洋美術館の所蔵版画49点、さらにベルリン国立版画素描館からの3点の素描を加えた計157点です。メルボルンのデューラー・コレクションは、トーマス・D・バーロウ卿が個人で収集した、刷りの質の極めて高い重要なコレクションとして知られています。国立西洋美術館では、1972年に「デューラーとドイツ・ルネッサンス」展を開催して以来、これほど多くのデューラー版画を展示したことがありませんでした。また、当館が収集してきたデューラー版画を一堂に展示するのも初めてのことです。ぜひ、この機会に、デューラーの精緻な版画芸術をご鑑賞ください。