日本を代表する写真家の1人・植田正治(1913-2000)は、戦前から故郷の鳥取県で作品を発表し、特に1950年代の「砂丘シリーズ」「童暦シリーズ」において、独特の創造世界を確立しました。モノクロの世界に繰り広げられる、卓越した構図とモダンな感覚の調和したスタイルは、現在のヨーロッパでも、「ueda-cho」(植田調)という言葉が通用するほどの評価を得ています。2007年にはスイス、フランス、スペインで巡回展が開催されました。
一方、浜口陽三(1909-2000)は1950年代、パリでカラーメゾチント技法を完成させ、光を含んだ柔らかな深い闇と瞑想的な静物の表現に行き着きます。静謐な作風は、他の追随を許さず、世界的なコンクールで受賞暦を重ねて今なお20世紀を代表する世界的な版画家として知られています。
銅版画と写真は、制作方法のまったく異なる表現手段です。気の遠くなるような時間をかけて金属を刻んでゆく、手仕事に近い浜口の銅版画と、世界を己の観念に引き寄せて一瞬を捉え、プリントの工程において作品性を打ち出してゆく植田の写真。二人の探究心は終生とどまることがありませんでした。それぞれの分野において20世紀を先導してきた巨匠たちの作品を併せてお楽しみください。夏の日のひととき、軽やかに心の旅に出てみませんか?