22歳5ヶ月で逝った夭折の画家、村山槐多(1896-1919)の回顧展です。
早熟で多感な青年であった槐多は、絵画と文芸に独特の感性を発揮した、大正が生んだ異色の才能でした。浪漫性をたたえた表現、対象把握の凄みは、ほかの何ものでもない槐多の絵としか言いようがないものです。それは古代への憧憬と現実の恋情とが、絵画の源泉でした。京都、信州、田端、代々木と彼が見つめていた風景はさまざまですが、その眼差しの向こうにあるのは、一貫して精神の高みではなかったでしょうか。
高村光太郎に「火だるま槐多」と呼ばれ、みなぎる生命力をもてあましながらも死に向かうデカダンスをまとった槐多は、貧困と宿痾のうちに烈しく短い生涯を駆け抜けました。彼の生き方は、近代が生み出した「夭折」という魅力的な姿を遺しました。美を具現化する方法として、槐多は個人感情の発露と表現とを融合して、あらたな絵画の姿を私たちに見せてくれたのです。日本近代美術の青春期とも言えるこの時期、その存在は象徴的でさえあります。
今年は槐多が代々木の「鐘下山房」で没してからちょうど90年にあたります。この機会にいまいちど、ガランスを愛した、この魅力あふれる圧倒的な才能を振返りたいと思います。
油彩、水彩、素描、詩歌原稿のほか<ピンクのラブレター>などの書簡類もふくめて約140点で構成した本展覧会によって、この画家の実像を感じていただけるのではないでしょうか。