「赤富士」の名で知られる《冨獄三十六景 凱風快晴》など、北斎(1760-1849)の作品は、日本人のみならず、西洋の人々も魅了し続けてきました。かのゴッホが手紙の中で何度もその名をあげているのもその一例です。
パリのフランス国立図書館と、ライデンのオランダ国立民族学博物館には、日本人の暮らしぶりを描く作品が所蔵されています。おらんだの画用紙に描かれたこれらの作品は、明らかに北斎の画風であり、実は長崎のオランダ商館長と、シーボルトが持ち帰ったものなのです。文政年間(1818-1830)、オランダ商館長は、4年後との江戸参府のたびに北斎などの絵師のもとを訪れ、その制作を依頼していたのでした。
そして、今回、オランダとフランスに分蔵されていたこれらの風俗画が、両館の協力を得て初めて同時に里帰りすることになりました。本展では、これらの作品によって、これまで“知らなかった”北斎像をさぐり、北斎とシーボルトの交流にも着目します。と同時に、おなじみの「冨獄三十六景」や『北斎漫画』のほか、版画や版木、肉筆画、摺物など、初公開を含む北斎の名品を幅広く紹介します。“知らなかった北斎”と“知っている北斎”、ふたつの視点から迫る本展で、豊かで力強い北斎の芸術世界をお楽しみください。