はるかいにしえより2000年以上の長きにわたり交易の手段として「辺境」とよばれる地のひとびとに紹介され続けたガラス工芸品・・・特に華やかな紋様のあしらわれたビーズに彼らは魅了されました。紀元前に表現されたアフリカの祖霊像はすでに絢爛たるビーズの装飾を身にまとい、その愛情の深さを想像させてくれます。
それは単に自らを美しく演出するための装束にとどまらず、お守りであり、意味をもつサインであり、時として権力の象徴でもありました。自然界には存在し得ない色彩、ガラスの製法を知らぬ彼らの眼にこれらの色ガラスがどれほど美しく絢爛に映ったか想像に難くありません。特にヴェネツィアよりもたらされた装飾用のビーズは彼らにこよなく愛され、それらは交易の手段として現地の産物と交換されました。
そしていま、彼らに大事に伝世されていたそんな「トレード・ビーズ」の美しさは世界中の愛好家を魅了し、その真価を再評価され、逆に世界中に紹介されています。
それは時間の流れをものともせず可憐な姿を現在にとどめ、どのひとつぶをとってもはるかな時間の流れを超え、世界を旅し、われわれの目の前にたたずむ奇跡です。
本展では、主としてアフリカにもたらされた19世紀後半のヴェネツィア・オランダの交易玉を中心に「トレード・ビーズ」の世界の一端をご紹介させていただきます。
はるか古代の名もなき天才作家たち、近世のムラーノの工房の職人たち、小さなガラス玉に表現された無限の世界を愛しこれらの玉を伝えてくれた先人たちとの時空を超えた交感をどうぞお楽しみください 。