動物はいつの時代にも描かれてきました。中でも18世紀後半から19世紀前半までの約100年間は、日本絵画史上、最もバラエティー豊かな動物絵画の時代と言えるでしょう。
珍しい生物や自然界への好奇心から博物学が高まり、庶民の間では動物の見世物が人気を呼んだ時代でした。ラクダや象、まるで図鑑のような魚の絵が、掛軸となり床の間を飾ったのです。一方で、古来、人々が動物に対して感じてきた神秘性から、信仰的な目的の不思議な絵も生まれています。
江戸後期の絵画界全体を揺るがした「本物のように描く」という新しい技術も、動物絵画の面白さを一段と押し進めました。「森派」のように、迫真的な動物の絵を家業にする一派さえ現れたほどです。また、この時代には、画家が個性を表現し自身の内面性に目を向けようとする近代的な芸術精神が高まりました。物思いにふけっているような表情の動物や、動物の姿を借りた奇抜な表現も、そうした背景から生まれた新しい世界です。さらには、犬がまだ今日ほどペットとしては飼われていなかった当時にあって、町なかの子犬に人間的な表情を与え、誰もが愛らしいと感じる絵に仕立てた円山応挙のような画家もいました。
動物の絵と一口に言っても、そこには実にさまざまな動機があります。そして画家たちのほとんどが、余技ではなく本気で動物の絵に取り組んだのです。「動物たちが主役」になった約80点の絵を通して、多彩な魅力あふれる動物絵画の時代を、実感していただきたいと思います。