清方の美人画は高く評価されており、その清楚な女性美は多くの人を魅了してやみません。美人画とは、特定のモデルを描いたのではなく、画家の内情から沸いてくる美しい女性を描いたもので、清方はそこに四季折々の風情を託して情緒あふれる絵を制作しました。今回展示する「道成寺(山づくし)」「鷺娘」など、芝居や舞踊に登場する女性の着物の模様や背景にも桜や雪などの季節感が織り込まれています。
清方は、芝居好きの見巧者として知られており、『歌舞伎』、『演藝畫報』などの専門雑誌で、スケッチや口絵のみにとどまらず、随筆なども依頼されていました。
歌舞伎の演目にもある「道成寺」「鷺娘」は清方が好んだ題材のひとつで、様々な場面が幾度も描かれています。また、衣装の模様を描く上でも、決められた形の中に、自分の好みを取り入れています。
「道成寺(山づくし)」は大正期に清方が参加していた『金鈴社』の第五回展に出品された作品です。『金鈴社』は、当時文展などで活躍し、将来の画壇を担うと期待されていた画家たちが、自由に作品を発表する場として結成された美術団体です。清方も多くの傑作をこの会で発表しています。
《主な展示作品》
福富太郎コレクション蔵
「道成寺(やまづくし)」(大正9年)、「鷺娘」(大正9年)
「夜の若葉」(昭和14年頃)、「化粧(婦人像)」(昭和8年)
当館蔵
「浅みどり」(明治34年)、「襟おしろい」(大正13年)
「舞妓」(昭和5年)、「山百合」(昭和20年)
全49作品58点